VTuberの歌を聴いた(2020)

昨年末に書いた、2019年よく聴いたVTuber音楽についての記事が、読み返すたびに自分でも発見があったりして我ながらそこそこ気に入っているので、今年も同じような記事を書きました。

 

tendrefleur.hatenablog.com

 

例によって紹介記事というほど読みやすくはなく、別にあらゆるVTuber音楽を聴いたぜと思っているワケでもなく、あくまで備忘録を、自分の手の届いた範囲について書こうという趣旨です。

 

 

 

ウタゴエ放送部♪

 

葉巡明治先生経由で知ったけどその後どう関わってるか全然わからないバーチャルバンドプロジェクト・ウタゴエ放送部♪の、冬のコミックマーケットで頒布された2曲入りCD「これから、はじまり。」が、ほどよい素朴さで、食べ慣れた焼き菓子みたいな味わいの名盤でした。いつも素朴な曲ばっかり褒めててすみません。

厳密には2019年末リリースですけど、聴き込んだのは当然今年に入ってからなので取り上げちゃいます。

 


《オリジナル曲MV》音羽ララ「Brand New Day!!」《ウタゴエ放送部》

 

奇を衒わなさすぎなくらい真っ直ぐなサウンドの『Brand New Day!!』が特に気に入っています。

ともすれば情報量が少ないと言われかねないような歌詞ですけど、言葉選びが正直だから全然薄っぺらいとは思わないし、気持ちのいい聴き心地です。

何より音羽ララ先生*1の、いい意味で深みがあんまり無くて、極端な作為も感じられなくて、真実味を帯びている歌声にハマってて最高。総じてド直球で、心の奥にグッと踏み込まれるものがあります。

 

春歌みこと先生の『歌え!』も格好良いです。

格好良いとは言っても攻撃的とか圧倒的とかそういうのじゃなくて、人間臭さの滲み出る格好良さだからスッと聴けちゃいます。なんで2曲入りのうち此方だけYouTubeにFullが上がってるのかは分かりませんが。

パワフルな歌声と言うには少しキュートすぎますけど、だからこそ切実さが歌に乗っていて涙を誘います。

 


《オリジナル曲MV》春歌みこと「歌え!」《ウタゴエ放送部》Full

 

例えばよく知らない難しい言葉は使わないし、音をゴテゴテと飾り立てたりもしない、ひょっとすると表現の幅広さを感じさせない音楽かもしれないけど、その代わりに自身の一番表現したい部分に対しては極めて真摯でひたむき。そういう真っ直ぐさが詰まった2曲だと思います。

そして、今VTuberというと何でも極端なものがウケているようにも見えますけど、意外とこういうプレーンな表現が受け入れられる土壌も生まれてきているんじゃないか、と密かに期待していたりもします。

 

www.youtube.com

 

 

 

多々星カイリ

 

今年も大好きになった歌ってもちろん沢山あるんですけど、敢えてひとつ挙げるなら多々星カイリ先生の『staple stable』カバーが、思わず唸ってしまう聴き応えでした。

 


staple stable Covered By 多々星カイリ【歌ってみた】

 

全編通して芯がありつつもたっぷりの愛で包み込むみたいな強く優しい歌声、その上で要所で切迫感が言葉に乗っていたり、いじらしい面が顔をのぞかせていたりと表情豊かで心を揺さぶります。

サビに入った瞬間にぱっと空が広がるみたいな、それでいて最後には変に後を引かずに残り香だけを感じさせるみたいな聴覚体験も感動的です。

 

音域がそれほど広くないこともあってか、歌い手の良い声がばっちり使われているのも味わい深さに一役買っています。

なんて言うとまるで歌唱難易度の低い曲のようですが、実際には要求される技術の種類がまあまあ多く、これほど自然に聴かせるのはそう誰にでも出来ることではなさそうです。多々星先生の強みを活かせる選曲だと感じます。

 


ココロ*パレット Covered By 多々星カイリ【歌ってみた】

 

こういう言い方が適切かどうかかなり怪しいのですが、彼女の選曲や歌い方は実にフレンドリーです。技術を見せびらかしたり聴き手を打ちのめすのではなく、器のデカさが格好いいタイプの音楽。

それが大人っぽい余裕のようにも、子供らしい気安さのようにも感じられるというのが面白いところですが、ともあれ気持ちのいい歌い手であることは確かです。個人的には、そういう歌にこそ活力や幸福感を貰えます。

 

あとは、『Calc.』のミュージックビデオで、歌い手本人とは全然関係ない人たちが恋愛ドラマやってるとか……そういうセンスも、好きです。

 

www.youtube.com

 

 

 

結城ミチル

 


【歌ってみた】オツキミリサイタル/結城ミチル【Vtuber】

 

良いですよねカゲプロ。自分はリアルタイムでちゃんと履修してたわけじゃないんですが、あれだけの熱量を集めていたコンテンツも他に中々ないと思います。

そんなカゲプロの楽曲より『オツキミリサイタル』の、結城ミチル先生によるカバーが自分かなりツボでずっと聴いてました。

 

正直、結城先生の歌の良さを言語化するのは難しいのですが……自分が言えるのは、すごくリアルな質感を持った歌声だということです。

エネルギッシュではあるものの、決してすごくパワフルというワケではなく、どこか甘さのある発声だと思います。けれどそれが、まるで不完全な人間が自問自答の末に決意したみたいな、弱さを包み込んだ力強さのように感じられて、その質感がなんだか他人事のようには思えませんでした。

コテコテに可愛い声を作るでもなく必要以上に抑揚をつけるでもない、少女のようなその歌声が、作り物っぽさがなくて腑に落ちるし、だからこそ想像力を大いに掻き立てられます。

付け加えて言うなら、そんな歌声が賑やかなサウンドにも意外なほどにハマっていて印象的です。私はもっと、パキッとした声の方が賑やかな曲には合うのだとばかり考えていたので、これも不思議な話なんですが……

 

それにしても『オツキミリサイタル』って (というかこの手のジャンルって) はっきりとした物語や登場人物がありますから、どうしても想像の余地がないタイプの音楽だと思うんですけど、それを歌声ひとつでここまで身近なレイヤーに落とし込むことができるものなんでしょうか?

いい意味でキャラクターソングっぽくないというか…… メインストリームとはひと味違う、VTuberボーカルのの味わいです。

 

www.youtube.com

 

 

 

星村來花

 

歌声だけで言えば星村來花先生って前から存在感のある歌い手だったとは思うのですが、音源についてはレコーディングやミキシングの面で損してるかな?という印象がなかなか拭えませんでした。

ところが今年出たオリジナル曲は、プロによる作詞作編曲・MIXらしく聴きやすくて、それによって星村先生の歌の持ち味も より引き出されていて……文句なしに良かったです。

 


【1stオリジナル曲】花華花 / 星村來花【Vtuber】

 

決して真新しい表現手法ではないからこそ胸に沁みるバンドサウンドといい、派手ではないけど耳に残るメロディーラインといい、抽象度が極めて高い中にも全体として統一感のある歌詞といい、全部グッときて泣けちゃいます。

感傷的な、それでいてどこか歌い方に余裕のある歌声も、格好良くて胸に刺さりました。表現が大袈裟すぎないからこそ、耳に馴染みやすくて奥行きを感じさせる歌です。曲調も相俟ってというのもあるのかもしれませんが、一周回っていないと中々出せない歌のような気がします。

しかもこの、異国的とも回顧的ともつかない独特の味わいの歌詞が、星村先生の歌声で歌われることについて妙に納得感があります。

 

真新しい表現手法ではないと書いた通り、新鮮な驚きがあるタイプの音楽ではありません。たぶん、音楽を探す対象をVTuber音楽に限らなければ、こういう曲はそこそこ見つかるのだろうなとさえ思います。

だけど私がたった1曲『花華花』を好きになれたのは、この曲が「VTuber音楽」として世に出たからでした。そうでなきゃたぶん、このインターネットの広大な海で出会うことはできませんでした。

これを受け手側の立場から言うのも身も蓋も無い話ではあるのですが、私のような人間が音楽に「出会える」、そこにVTuber音楽がVTuber音楽であることの価値があるというのがここ2年ほどずっと感じていることです。曲と関係ない話が長くなってしまって申し訳ないのですが。

 

www.youtube.com

 

 

 

夢羽ねむり

 


【歌ってみた】だめにんげんだ!/夢羽ねむり【Vtuber】

 

つい「とにかく可愛い!」みたいなことだけ書いて筆を置きたくなるくらいには夢羽ねむり先生の『だめにんげんだ!』が可愛かったのですが、はたしてこれを本当に「とにかく」なんて言葉で片付けていいのかと考えると、むしろ全く一筋縄ではいかない音源のような気がしています。

 

まず不思議なのが、決して声の癖が弱いなんてことはなく、メリハリのきいた歌のはずなのに、同時にどこか平坦な印象も覚えるという奇妙なバランス感覚。

ちゃんとポップでキュートなのに、後味は純粋でクリア。そんな聴き心地が何とも面白くって、愛おしいです。

 

それも相俟ってということになると思うのですが、「だめにんげん」と言っても如何にもなステレオタイプな表現ではなく、もう少し解釈の余地を持たせた歌声になっているところにも心惹かれました。

「普段は自罰的な人が今だけうっかり開き直ってしまった」みたいな清々しさも感じますし、「一見真面目だけど交流を深めてみるとクズ」のような複雑な味わいもあります。その辺、聴き手のメンタリティに左右される部分もあるのかもしれませんが……いずれにしても人間を描いた歌として解像度がちょっと高くて、ドキドキします。

 

www.youtube.com

 

 

 

 

千歳天音・熊枕くあ

 

主にIRIAMで活動されている千歳天音先生と熊枕くあ先生による『Happy Halloween』カバーも、この2ヶ月くらいずっと聴いていました。

アーティスト単位で聴くっていうより、この動画が好きだな~って聴き方をしてたのでこんな見出しになってしまいましたけど、別に2人組ユニットとかではなくていわゆるコラボ動画です。

 


【ロリ声Vtuber】HAPPY HALLOWEEN 歌ってみた【くあまね】

 

動画タイトルに「ロリ声Vtuber」なんて銘打たれていて、それはその通り2人ともロリ声ではあるんですけど、 しかし聴き込んでみると2人の歌声は対称的です。

恐らく曲に寄せてそうなってるんだと思うんですけど、千歳先生の歌声は (普段の話し声からすると意外なほどに) キンキンした成分をたっぷり含んでアクセントも顕著な、華やかな歌声です。だと言うのに、息の使い方があまりにも子供っぽいものだから、なんだか危なっかしくて目を離せない感じがうまく演出されていて……庇護欲を掻き立てられました。

一方で熊枕先生の歌は、ともすれば弱々しくも思えるような、ベタっとした甘い発声です。それだけでも可愛いのは可愛いんですけど、この歌がすごいのは、高音域に自由が利くからなんでしょうか、その甘い歌声に一本芯が通っていて、聴き進めるほどに存在感を増すところ。途中で大きく表情を変えるようなこともない曲のはずなのに、不思議と翻弄されるものがあります。

 

なんてダラダラ書いてますけど、重要なのは、そういう要素の全てが「だから可愛い」に決着して、それが『Happy Halloween』というキャッチーさ全振りみたいな曲にうまくハマっていることでした。

そりゃ勿論、誰がどんな曲を歌ったってその人の自由ですけど、そこから1歩踏み込んで良い歌を作ろうと思ったら、歌い手にどんな曲が合うかという話は避けて通れません。

彼女らがその辺に真面目に向き合って選曲したのか、それとも適当に選んだのかまでは知りませんが、いずれにしても自身の声に合った曲を出せる歌い手がカッコいいと私は思いますし、歌をフックにしてVTuberを好きになろうと思ったら歌唱技術とかは二の次で結局「何を歌うか」なのかなって、最近ちょっとずつ感じています。

 

www.youtube.com

 

 

 

稀羽すう

 

名前が読めない。

 


【歌ってみた】晴天を穿つ / 傘村トータ (cover)【稀羽すう】

 

最近だと「歌うまVtuber決定戦」とかいう死ぬほど洒落臭い名前だし正直コンセプトも気に食わない企画で決勝に残ったりされてたので、稀羽すう先生の歌が魅力的であるということは多くの人が認めるところなんでしょうけど、じゃあどういう風に魅力的なの?って考えると意外と難しい歌い手です。

声質は間違いなく良いんだけどそれだけじゃ説明つかない。よく上手い歌と言われるような太くてパワフルな声ではないし、むしろ高音域とか結構弱々しい。

 

だけどその、声色を丁寧に取り扱った歌声が、感傷的で、圧倒的な情報量をもって心をくすぐってきます。声が綺麗だからスッと入ってくるくせに、気持ちをぐちゃぐちゃに搔き乱されるという罠じみた聴覚体験。

なんて書くとまるで、わざとらしい歌唱表現のように思われるかもしれないけど、彼女の歌が素敵なのはその辺、意外と気取っているように聞かせないところです。むしろ、あくまで自然体な歌だと思える範囲の表現だからこそ、声に真実味があって胸を刺すのかもしれません。

 

 

YouTubeの動画じゃないですしショートサイズですけど、 Twitterに上がっていた『ピンクレモネード』のカバーが、稀羽先生のいい声がしっかり使われていて好きです。

彼女が歌うとわりとどんな曲でもどこか儚げにはなるのですが、そんな中にも意外なほどに表情のバリエーションがあって驚かされます。

 

いわゆる歌枠配信もよくやる人でそっちはそっちで素敵なんですけど、「動画」として上がっているものには、腰を据えてただ1曲と向き合って試行錯誤を重ねるゆえの綿密さがありました。

特に今年は、ハコをおさえて客に足を運んでもらって歌うという意味でのライブが難しい1年になりましたけど、歌枠配信とか配信ライブとかじゃ全然その代わりにはならなくて。そうなったときに、丁寧にレコーディングした音源だからこその味わいというものをちゃんと出せる歌い手は強かったですし、へたに「Live」なんて言ってるものよりもよっぽど息衝いた歌だと思い知らされます。

 

www.youtube.com

 

 

 

 


【μ's】Wonderful Rush【ラブライブ!】

 

観測圏内でラブライブ!のカバーがなんだか目立っていたので、今年はよく聴きました。

別にちゃんと数えたわけじゃなくて雰囲気で言っちゃうんですけど、去年はソロでカバーしてる人をよく見かけたのが、今年は結構コラボの題材になってたなぁという印象です。いやわかんない、にじさんじにイメージが引っ張られてるだけかも。

 

μ'sの曲って、受け入れられる歌声の幅が広くて、VTuberがカバーするのに向いてると思うんですよね。

これはプロジェクトごとに音楽制作やキャスティングのコンセプトが違うという話であって、ラブライブ!が他の2次元アイドルより良いとか悪いとかじゃ決してないんですけど、比較的どんな声の歌い手でもその個性を活かしやすいような曲が揃っている気がします。ミキシングエンジニアは大変かもしれませんが……

 

上に貼った動画なんかは、色んな声質の歌い手が集まっていて、いい具合に声優音楽っぽい味わいでした。賑やかなのに、耳によく馴染みます。

 


雨ニマケテモ「NOAH」MV

 

去年めちゃくちゃ語った雨ニマケテモは、今年ももちろん聴きまくりました。

音楽活動に一貫性があるみたいなことを書いたんですけど、今年も去年と地続きなんだと思えるような音源がしっかり上がっていて、なんだか嬉しくなったりしてました。

『NOAH』なんかがまさに自分の欲しいところにボールを投げてくれたなと感じる一方で、『赤く、紅く、染まる』では思いがけずSHiNO*2先生の歌声のキュートな面に触れたような気がします。

 

これまではそれぞれ独立していたオリジナル曲たちが、1st Album「Palette」という形になったのも今年は大きかったです。

今はサブスク全盛で、曲と曲、あるいは曲とアーティストとをいちいち関連付けないような音楽の聴き方もできる時代です。そんな中で敢えて、アルバムという流れの中に楽曲を組み込む。それはきっと単なるアルバムへの憧れだけではなく、今まで誠実に歩んできたその道のりごと見てほしいという自信の現れなのだろうし、1つの曲をきっかけとして他の曲にも手が伸びるような体験を提供してくれるものでもあると思っています。

 

 

他には……月城れな先生とか、八和燈先生とか、「魂」が交代する前のあまがみJKとかも今年はよく聴いたんですが、様々な事情により2020年12月現在ここに貼れる動画がありません!

 

 

 

 

*1:ちなみに音羽ララについてですが、体調面の問題から今年2月頃より所謂『魂』を交代して活動されています。新しい『魂』さんも素晴らしい歌い手ではありますが、こういう出来事はやっぱりショックだし今でも悔しいと感じてしまいますね……

*2:雨ニマケテモのボーカル。